SFF第一部
PLAYBALL
プロローグ
悠久の流れをたたえるガンヂス河。
そのほとりに、一人のヨガ行者と思しき男がたたずんでいた。
日比野風太郎(ひびの ぷうたろう)、40歳。
その名の通り日本人でありながら二十年ほど前からこのガンヂスのほとりでヨガの大道芸を見せて日銭を得て暮らしている。
夕焼けの映えるガンヂスの広大な水面に、また一頭、牛の死体と思しき肉塊が流れて行く。
自分もまたあの牛の如くこのガンヂスにおのが肉体を横たえて流れていきたい…風太郎は今なおそう願ってやまない。
この痩せさらばえた男がかつて東京大学開校以来の奇才、在学中に司法試験・公認会計士・国家公務員一種を制覇し史上最年少の資格三冠王と賞された伝説の日比野風太郎であったと誰が喝破できたであろう。
今の彼は日本を捨て、己の人生を捨て、ガンヂスの流れとともにその人生を静かに無為に終えようとしていた。
一人の世捨て人と言ってもいい。
風太郎は、つい昨日まで、このガンヂスのほとりで朽ち果ててゆくつもりであった。
だが、風太郎を日本へ連れ戻そうとする男が現われたのである。
東京郊外にある全寮制の女学校・聖ストロベリー・フィールズ学園の第三代理事長・ジョン願滋郎(がんじろう)。
高校、そして大学での無二の親友…一緒に髪を伸ばし、ベルボトムのジーンズを履き、ギターをかきならし、そして野球に共に燃えた親友だった。
そのジョン願滋郎と二十年振りにこのインドで運命的な再会を果たしたのだ。
「日比野君、戻って来てくれ! この二十年の間に、私は日本に踏みとどまって辛酸を舐め尽くした。そして、我々の理想であった真に自由な学園を創ろうと寝る間も惜しんで奔走しつづけた…そして、今、私は聖ストロベリー・フィールズ学園…通称SF学園の理事長となり、通常の管理教育からドロップアウトさせられた子供たちや、どこへも行く場所のない子供たちなどを含めた多くの生徒たちを教育している。だが、君は知らないと思うがこのところのバブル崩壊で、すっかり寄付金が集まらなくなってしまった。このままではSF学園は破産だ。そうなれば行き場を失う子供たちが大勢出るのだ。今こそ君の力が必要なんだ」
髪こそ短く切っていたが、ジョン願滋郎はかつての夢であった「真に自由で平等な学園」を現実に建設するべく邁進してきたのだ。
そして今、運命の悪戯とはいえかつての盟友日比野風太郎に再会し、こうして助けを求めて来た――風太郎は一日の間このガンヂスの流れを見つめながら考え続けたのだ。
そして、今、彼は決心した。再び日本に戻ることを。
ここに天下の奇才日比野風太郎が静かに立ち上がったのだった。
だが…
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